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従業員・職員による「横領」は、企業・組織にとっては金銭的な損失だけでなく、発覚することで杜撰な資金管理体制が明らかとなり、社会的な信用を失うことにもつながります。企業では近年、従業員による不正な経理を防ぐために様々な対策を講じるようになっていますが、根絶には至っていないのが現状です。
今回は、横領とは何なのか、日本で発生した横領の最高金額はどのくらいなのか等について解説していきます。
横領とは、他人から預かって保管している金品・物品を不法に自分のものとすることです。横領というと、架空発注、ペーパーカンパニーを経由して行われるような大事件がイメージされますが、領収書にちょっと細工をして、費用として発生していない金額を要求することも立派な横領です。例えば、「領収書に自分で「1」や「0」を付け足して会社に経費申請して、差額を自分のものにする」、「白紙の領収書に勝手に金額を書き込んで経費の申請をする」「プライベートな目的で使った領収書を、経費として会社に申請する」といった行為も、横領に該当します。
では、マスコミに大々的に報道されないような少額のケースも含めると、日本全体でどのくらいの横領が発生しているのでしょうか。企業の不正調査を行う「デロイトトーマツ」が公表している『企業の不正リスク調査白書2018-2020』(調査対象は東証1部、東証2部、ジャスダック・マザーズ、名古屋・札幌・福岡に上場している303社)によると、調査対象企業の46.5%が過去3年間に何らかの不正が発生し、そのうち「横領」は66.7%(複数回答可)を占め最多となっています。横領は企業における不正事例の中ではもっとも多く発生しており、決して珍しい犯罪ではないといえるでしょう。また同調査では、不正による損失額、「1,000万円未満」が有効回答の約7割を占めているという事実も明らかにされています。億単位に上るような金額ではなく、比較的少額の不正、横領で事件となるケースが多数発生しているのです。
横領罪には大きく分けて、単純横領罪、業務上横領罪、遺失物横領罪の3種類があります。
・単純横領罪・・・他人から委託を受けて一時的に占有しているものを、そのまま自分のものにしてしまうという犯罪。(例:会社から借りていた物品を、そのまま自分のものにするなど。
・業務上横領罪・・・業務上、他人のものを預かり保管している人が、そのまま自分のものとするという犯罪。(例:会社の経理部門の人が、会社のお金を自分の口座に密かに移すなど。
・遺失物横領罪・・・遺失物を勝手に自分のものとする犯罪。(例:電車の中に忘れて置かれていたものを、誰にもいわずに自分のものにするなど。
企業等で発生する横領は、主に業務上横領罪に該当します。業務上横領罪には罰金刑がありません。そのため刑事事件として起訴され、有罪判決が出ると、執行猶予がつかなければ即刑務所入りとなります。ただ、実際には会社側と示談交渉を行い、不起訴や減刑などが行われるのが一般的です。
マスコミではよく億単位の横領を行っていたケースが報道されていますが、もっとも横領した金額の大きかった事件としては、新潟県長岡市にある大手製紙会社の子会社で発生した業務上横領事件があります。同会社の総務部長を務めていた人物が、2000年頃から2015年までの15年間に、約25億円を横領したのです。その額の大きさもさることながら、一介の総務部長・サラリーマンが、横領によってそれだけのお金を手にしたという事実が世間を驚愕させました。
横領の手口はいたってシンプルでした。容疑者は経理の腕を見込まれて本社から子会社へ出向した人物で、出向後に子会社が保有していた2つの銀行口座のうち1つの口座を「解約した」と会社側に偽って報告し、自分で勝手に使う口座としたのです。立場上、経理書類の数字も都合よく操作できたこと、また容疑者が東京の本社から新潟の子会社に出向してきたという立場であったことから、子会社の社員によるチェック機能がまったく働かなかったことも、事件発生の大きな要因といわれています。新潟の子会社の社員にとって、東京本社の管理職はいわば雲の上の存在であり、仕事内容に口を挟める雰囲気ではなかったようです。
横領したお金は競馬やマンション購入などに充てていたといいますが、自分のものとして使っていた口座に関する銀行からの郵便物が、容疑者以外の社員に届いたことから横領が発覚。業務上横領罪により逮捕され7年の実刑判決が下されました。
約25億円という巨額の横領事件を引き起こしたのは、もともとは東京で働いていたごく普通のサラリーマンでした。そんな人物でも、立場を悪用すれば恐るべき額の横領を行えてしまうわけです。
しかしこれほど大きな金額ではなく、たとえ1回当たり数百円の横領でも、継続的かつ大人数が行えば膨大な額となります。近年、各企業は「従業員による不正は起こるもの」という性悪説の立場に立って厳正な不正対策を進めつつありますが、企業が被り得る損失の大きさを考えると、やむを得ない措置なのかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新情報や具体的対応は公式情報や専門家にご確認ください。詳細はご利用規約をご覧ください。
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