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世界各国で注目されている「リスキリング(Re-skilling)」。ひと言で表すと“学び直し”です。今年(2022年)10月に岸田首相が所信表明演説で「リスキリング支援に5年で1兆円」と述べ、「新語・流行語大賞」2022にもノミネート。本記事では、この「リスキリング」の基礎知識をご説明します。
目次【本記事の内容】
リスキリングとは何でしょうか?
国内外のリスキリング事情に詳しい研究機関のリクルートワークス研究所が今年5月に発表した資料「リスキリングをめぐる内外の状況について」
では、リスキリングを以下のように説明しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して価値を創造し続けるために、必要なスキルを獲得する/させること」
リスキリングを企業側の視点にてひと言で表すと「既存人材の再教育」です。
また、リクルートワークス研究所では上記の資料に補足して、
・近年は、自動化やグリーン対応で生じる仕事の転換に適応するためのスキル習得を指すことが一般的
・全ての従業員を対象とするもので、いわゆる高度デジタル人材の育成とは分けて考える必要
と説明しています。
社会で技術革新が生じたり、企業組織でビジネスモデルの変更が生じたりすると、それまで業務上で用いてきたスキルが通用しなくなる場合があります。その変化に適応するために行うのがリスキリングです。
特に現在は、デジタル化によって生まれた新しい職業に就いたり、デジタル化で進め方が大きく変わった仕事に対応したりするために、スキルを習得するときに「リスキリング」という言葉が多く使われます。
世界では数年前からリスキリングに力を入れる企業が飛躍的に増加。特に、豊かな資本を持つ大企業では、大々的にリスキリングに取り組んでいます。ここで一例をご紹介しましょう。
・AT&T(アメリカ)
先駆者として有名なのが、米通信大手のAT&T社。同社は2013年に「ワークフォース2020」というリスキリングのプログラムをスタートし、2020年までに10億ドルかけて従業員10万人のリスキリングを行いました。この結果、社内技術職の8割以上が社内異動によって補われました。AT&T社の場合、リスキリングのプログラムに参加した従業員は、そうでない従業員に比べて1.1倍高い評価を得ており、表彰されたのは1.3倍、昇進は1.7倍という成果を出しました。また、リスキリングに参加した従業員の離職率は、不参加の人の1.6倍低かったそうです。
・アマゾン(アメリカ)
米アマゾンは、2025年までに従業員10万人をリスキリングすると発表しました。注目はその投資額で、なんと一人当たり約75万円をかけるとのことです。
・ウォルマート(アメリカ)
世界最大の小売りチェーンであるウォルマートは、社内研修にバーチャルリアリティ(VR)を使用しています。まず、2016年に試験的に5店舗にVRマシンを導入し、2018年9月には約1万7,000台を全米の店舗に導入しました。このVRマシンを使って、従業員が店舗にいながらにして「ブラックフライデー」のようなレアイベントや、災害対応などの疑似経験を積めるようにしています。
以上のように、海外企業では続々とリスキリングが進んでいる一方、日本の企業は後れを取っているのが現状です。ただし、一部の企業では取り組みが始まっています。
日立製作所は2020年4月から、国内グループ企業の全社員約16万人を対象に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の基礎教育を実施しました。また、住友商事や三菱商事、丸紅などの大手商社が文系社員にAI研修を行うなど、大企業を中心にリスキリングが進みつつあります。
リスキリングと似ており、混同されがちな言葉に「リカレント(recurrent)」があります。「リカレント教育」と使われることも多く、リスキリング同様に近年注目されています。 リカレントは日本語で「循環」「回帰」という意味です。ここから、リカレント教育は「学校を卒業して就職後に、必要に応じて教育を受けること」となります。
リスキリングとリカレントの違いは「企業主導」か「個人主体」か。リスキリングは、仕事で価値を生み出すためのスキルや知識の獲得、学び直しを「企業主導」で行うことであり、企業の課題解決(=企業のために)として実施されるのが大半です。
一方のリカレントは、社会人が自身の仕事に関する専門的な知識やスキルを「個人主体」で学び、自分のために行います。つまり、企業がリカレント教育を推進する際は、従業員のキャリア形成のために学びの機会を支援する、という意味合いになります。
リカレントと同様、よく使われる言葉に「アンラーニング(unlearning)」があります。アンラーニングを日本語に訳すと「学習棄却」で、過去に学んだ知識を捨て、新しく学び直すという意味です。 リスキリングとアンラーニングの大きな違いは、前者が知識やスキルを「獲得」することが目的なのに対し、後者は「棄却」が主な目的であることです。
変化が激しい現代社会では、これまで培ってきた知識やスキルは陳腐化しやすくなっています。そこで“さまざまな変化に対応するためには、新たに学ぶだけではなく、これまでの知識を捨てる必要もある”という考え方も大切です。 アンラーニングで既存の仕事の進め方ややり方を一度捨て、新たな知識や手法を得るために積極的に学ぶことができます。これが、人をより成長させるきっかけになるのです。
企業によるアンラーニング=「棄却」するメリットは、
①変化に対応できる人材や組織となって成長できる
②業務の効率化
などがあります。従業員が仕事において既存の考え方を捨てて新しい知識や手法を得ることで、時代の変化に対応できる人材となります。また、これまでの常識を捨てることで仕事の進め方が改善され、効率化されます。
一方のデメリットは「自分がいま持っている知識やスキルは現代で通用するものか(何を捨てるべきか)」を見極めるのが難しいことです。特に、キャリアを積んでいたり高いスキルを持っていたりする人ほど、自分の知識やスキルを捨てることに抵抗を覚える傾向があります。
いま、なぜリスキリングが注目されているのでしょうか? 「リスキリング」という言葉が世界で使われ始めたのは、2018年開催の世界経済フォーラム年次会議(ダボス会議)で行われた「リスキル革命」と呼ばれるセッションがきっかけと言われています。その後、2020年に行われたダボス会議では「2030年までに全世界で10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」と宣言され、世界中で注目されました。
近年は特に、国内外を問わずDXに対応するためのデジタル関連の教育が重要視されており、リスキングは「DX化に向けた新たなスキルや知識の習得を目指す」という認識で広くとらえられています。
日本では、今年10月に第210回臨時国会が召集された際、岸田文雄首相が衆院本会議で所信表明演説し、「個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と述べました。これは、これまで3年間で4,000億円規模だった人への投資を、今後は5年間で1兆円に拡充するということです。岸田首相の表明は、政府がリスキリングに本格的に取り組むという宣言と言えます。
世界のなかでデジタル化が遅れている日本が、これからDXに対応し、成長分野として労働移動を目指すために、リスキリングが国全体の課題となっているのです。
世界的に注目されているリスキリング。ここでは、そのメリットをご説明しましょう。主なものは3つあります。
企業がリスキリングを実施することで得られるメリットの一つが「自律型人材を育成できる」ことです。“自律型人材”とは、企業や上司に指示されてから行動するのではなく、会社に貢献するために何をすべきかを自らで考えて動ける人材のことです。
リスキリングによって知識やスキルを得た人材は、新しい視点や考え方を持ち、自分の成長を実感してモチベーションが高まる傾向があります。つまり、自律(自分で考えてコントロールできる)して働く力が身に付くのです。
激動の現代社会で企業が成長しながら生き残っていくためには、世の中の変化を読み取って適切に判断し、自ら動ける“自律型人材”が必要です。リスキリングによって、これらの自律型人材を育成できます。
リスキリングをとおして多くの従業員が新たなスキルや知識を得ることができれば、業務の進め方が飛躍的に進化します。従来は限られた一部の人々しかできなかった業務を幅広い人材で担うことができたり、IT活用によって作業を効率よく進めたりすることが可能になるでしょう。リスキリングは人々の働き方を変えて、生産性を高めるきっかけになります。
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事である後藤宗明氏が、著書「自分のスキルをアップデートし続ける『リスキリング』」で記載している“企業にとって最大のリスキリングのメリット”があります。それは、世界的に有名な人事コンサルタント、ジョシュ・バーシン氏が述べている説で、「採用コストと比較して、従業員へのリスキリングコストは6分の1で済む」ということです。
また、ある分析結果では、リスキリングの成果を出すためには平均で12か月から18か月かかるという試算があるものの、コストに関しては採用と比較すると安いとのこと。一から新たな人材を見つけるより、すでに在籍している従業員のスキルを上げる方が、コスト面でも効率的なのです。
以上が、リスキリングを行う3つの主なメリットです。
ここでは、実際にリスキリングを行う際の手順をご紹介します。主に、5つのステップを踏むことで、リスキリングを効果的に進められます。
必要なスキルは企業ごとに異なります。自社の特徴や経営戦略、事業内容を踏まえて人材戦略を定め、その戦略に必要な人材やスキルを明確に打ち立てましょう。そのうえで、リスキリングで得るべき知識やスキルを決めます。
従業員が効率よく学んでスキルを得るために、適したプログラムと教材を定めることも重要です。会社の規模や特徴、事業内容などによって、合うプログラムや教材は異なります。
学習方法は、対面研修・オンライン研修・eラーニングなど、複数あります。自社で用意するのが難しい場合は、外部サービスで学習コンテンツを導入する手もあります。特にデジタルに関するスキルは、社内外関係なく共通であることが多いので、外部のコンテンツやプラットフォーマーを利用する方が、時間と費用を節約できるでしょう。
また、できれば学習方法は複数用意し、従業員が自身に合う勉強方法を選べる方が、学ぶモチベーションを高められます。
リスキリングのプログラムや教材が準備できたら、従業員に実践してもらいます。その際に大切なのは、自社でリスキリングを実施する意図について、あらかじめ従業員に共有し、理解してもらうことです。社会的な背景を踏まえながら、きちんと説明する機会を設けましょう。
そして、従業員の学習意欲を大切にすることも欠かせません。学習を強制するのではなく、本人が自発的にスキルを習得できる仕組みにするのがベストです。就業時間外で学ばせると、従業員の私生活に支障をきたして学習意欲が低下する可能性があります。できれば、就業時間内で学べるように環境を整えるとよいでしょう。
リスキリングで得たスキルや知識を、実際の業務で生かせる職場体制にします。社内全体で従業員のスキルを有効に共有できる仕組みをつくりましょう。
また、リスキリングを“一度だけの学びの機会”にするのではなく、学習し続けられるように、企業が学びの機会を継続して提供することが重要です。
リスキリングを実施する際は、従業員の評価までセットで考えて仕組みを構築すべきです。習得したスキルや知識を用いて業務に貢献できたり、挑戦に前向きだったりした従業員をきちんと評価することで、社内全体のモチベーションが上がります。評価する際は、リスキリング後の業務に対する結果だけでなく、過程も含めて見ることで、従業員の挑戦意欲が高まるでしょう。
以上が、リスキリングを進める5つのステップです。
日本企業でもリスキリングを教育研修に取り入れているケースは多く、世界規模で事業を展開するアメリカの多国籍企業や、日本を代表する商事会社や家電メーカーなどでも実践されつつあります。 一方、それら企業での取り組みを通して、企業がリスキリングを進める上での課題も浮き彫りになっています。
その一つが、企業が求めるデジタルスキルを社員に身に付けてもらうのに、研修という手法だけで十分なのか、という点です。先駆的にリスキリングに取り組んでいる企業では、この課題に取り組むべく「社内インターンシップ」や「お試し配属」、「見習い制度」などを導入しているところもあります。研修で得られるスキル・知識と、実際の現場で求められるスキル・知識には少なからず差があることも多く、それをどう縮めるかを工夫する必要があるわけです。
また、企業内には、リスキリングに対して批判的な目を向ける社員も一定数いるのが通例です。例えば、40~50代のアナログ的な手法でビジネススキルを身に付けてきた世代は、自身が持つスキルの大幅な変更に強い抵抗を感じる可能性もあります。
この場合、リスキリングをしない限り企業内で生き残れないこと、リスキリングをすることで新たな職務を担える可能性が広がることなどを、面談などをとおしてうまく伝える必要があります。この点、伝え方などに工夫が必要にもなるでしょう。
本記事では、リスキリングの基本についてご説明しました。 自社でリスキリングを行う際はまず、前述の「5ステップでOK! リスキリングの効果的な進め方」で述べたとおり、必要なスキルを可視化したうえでどの程度のコストをかけられるかを試算し、プログラム・教材を選定しましょう。
企業が最も利用しやすいのは研修サービスです。目指すスキルに合った学習コンテンツがパッケージ化されており、受講者は効率よく理解できます。「マネジー」でも研修サービスについての記事がいくつかありますので、ぜひチェックしてみてください。
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