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新型コロナウイルス感染拡大により、企業活動のデジタル化が促進されました。それによってDXという概念がもてはやされ、各企業の取り組みが本格化しています。その一方で、DXは本質をつかみづらく、人々の捉え方には大きな差があります。マネジメントツールや文書の一部のデジタル化をDXと呼ぶことがありますが、これは認識が十分とはいえません。
DXの本質はデジタルによって組織とビジネスを変革することです。この視点に立つと、DXが部署を超えて横断的に推進される必要があり、DXの推進を経営企画室などの一部所に押し付けるだけでは不十分であることがわかります。この記事は、部署を超えた活動であるバリューサイクル・マネジメントの説明を交えながら、企業がDX化を成功させるヒントを示す内容です。
経済産業省は「製造業DX取組事例集」で、各製造業がDXにどのように取り組んでいるのかを公開しています。その中に三菱電機の「e-F@ctory」が紹介されています。これは部門を超えた取り組みとして、非常にわかりやすい例です。
「e-F@ctory」は製造工程全体のPDCAサイクルをマネジメントし、課題の抽出と改善策を見出すものです。管理対象を「設備・作業者」「ライン・工程」「工場全体」「サプライチェーン全体」の4つに分けています。
さらに「みえる化レベル」を「データ収集」、「可視化」、「分析」、「改善」の4つに分けています。
すなわち、作業者からサプライチェーンまでの全工程を可視化、分析対象としており、横断的な解決策を打ち出すことで全体最適を行っているのです。
ポイントは作業者や設備だけに分析対象が留まっていない点です。DXが組織やビジネスモデルを変革するほどの、スケールの大きいものであることがわかります。
DXを成功させるためには、第一段階として経営者や社員が部署、部門、取引先などの垣根を超えた活動が必要だという認識を持つことが極めて重要です。それは周囲の理解や協力が欠かせないものだからです。
様々な部門が問題点や課題を共有し、部門内で悩むのではなく、組織全体で解決へと導くマネジメントがバリューサイクル・マネジメントです。これはワークスタイルや組織開発を専門とする「沢渡あまね」氏が提唱する概念です。
「沢渡あまね」氏は半径5m以内の小さな範囲から、同じ言語で課題を共有し、解決するマネジメントサイクルを回すことの重要性を説いています。
経営者に対しては、ITへの投資を促しています。また、とくに人材育成が重要だとしており、今後は、人事評価制度の刷新も必要だとしています。
部門を超えて課題を共有し、ITに特化した人材が部署を超えて解決へと導く。これがDXの成功要因の一つとなります。
DXやバリューサイクル・マネジメントの重要性がわかっていても、なかなか次の一歩に踏み出せないのが実情ではないでしょうか。経済産業省が事務局を務める「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会WG1」は、対話が重要だと説きます。
DXが進まない理由は、「目的がわからない」「どうすればDXになるのかが分からない」「DXの進め方が分からない」ことだとしています。
これは経営層、事業部門、IT部門などすべての人材にいえることです。研究会は、組織内でなされる対話の中身について議論を進めています。
とくに経営層と事業部門との対話が重要になります。その目的やゴール、内容をすり合わせる必要があるためです。それによって予算の幅が大きく変わります。DXを会社全体の取り組みとしてとらえ、全員が自分事にする必要があります。
スシローはアプリやタッチパネル注文、セルフレジなどのデジタル化を進めています。以前は各システムが独立しており、データをとることができても、顧客データの有効活用はできていませんでした。2016年から「まいどポイント」という会員制のポイントプログラムを導入。散逸していたデータを統合しました。
それによってネット注文をしているユーザーがスマートフォンを利用していることが多いことや、持ち帰りのネット注文のみのユーザーがいることなどがわかってきました。
そこでスマートフォンのUI/UXを大幅に改善し、操作性の向上を図りました。スシローはアプリなどの改善も通して、予約率の向上やロイヤルカスタマー化を進めています。
独立していたシステムを統合し、顧客データを横断的に使えるようにしたことにより、顧客体験が向上しました。まさにDXの成功事例です。
以上のように、経営陣はDX化によって顧客満足度が上がることや、売上高や客数を増やせることを理解する必要があります。それが目的やゴールとなります。また、現場では吸い上げたデータをもとに抽出した課題を、迅速に解決する体制を作らなければなりません。
DXにはボトムアップ、トップダウンの2つの要素が関係しています。ボトムアップは部署間で課題を共有し、横断的に解決する取り組みです。トップダウンは経営層が目的や内容を決め、現場への浸透を図ることです。部署を超えて対話をし、バリューサイクル・マネジメントを回して解決することが大きなDX化のための小さな一歩となります。
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