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人手不足が深刻と叫ばれている状況にもかかわらず、定年を待たずに退社する「早期退職」が、労使双方から注目を集めています。人件費の縮小や経営危機の打開策として、リストラなど人員削減の一環としてとらえられることの多い「早期退職」ですが、退職金割増といった従業員側に有利な優遇措置を打ち出している企業もあります。この早期退職制度は、企業や従業員にとって、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
目次【本記事の内容】
「早期退職」とは、「定年を迎える前に退職」することです。会社の制度として設けている場合、退職金の割増や再就職先の斡旋、通常よりも多い有給休暇を与えるなど、何らかの優遇措置を講じているケースもあり、この場合は「早期退職優遇制度」などと呼ばれています。
一方、会社の業績悪化に伴い、「希望退職者募集」というケースもあります。会社を存続させるための止むに止まれぬ臨時的な措置として、期間や人数を限定して募集するものです。退職を希望する者が、会社が求める人数に達しない場合には、「退職勧奨」や「整理解雇」に踏み切ることもあり、こちらはマイナスイメージとしてとらえられています。
厚生労働省の「雇用動向調査」(平成17年)によると、平成17年の7月から9月に雇用調整を実施した事業所は全体の13%です。そのうち、希望退職者の募集、解雇を行った事業所は全体の2%で、臨時・季節従業員、パートタイム労働者の再契約停止・解雇は全体の1%となっています。
また、東京商工リサーチの調査では、2017年に希望・早期退職者の募集実施を公表した上場企業は25社で、総募集人数は3,087人となっています。
191社もの上場企業が、希望・早期退職者を募ったのはリーマン・ショック直後の2009年です。しかし、その後、円安に振れたことで、輸出産業を中心に大手企業の業績が好転し始めた2013年からは減少傾向となり、2016年には調査開始以来、最少の18社にとどまっていました。それが2017年は7社増えて、5年ぶりに前年を上回る結果となりました。
企業側の早期退職制度のメリットは、ずばり人件費の削減です。また、従業員の若返りや、好況時に無駄に増やしてしまった役職ポストを整理し、組織をスリム化することにもつながります。
人件費については、企業には“2020年問題”への対応という、厄介な課題があります。いわゆるバブル期に大量採用となった世代が2020年代に50代となるため、年齢に合わせた給与水準を維持するとなると、企業側には大きな負担となるからです。
また、少子高齢社会によって、企業内の平均年齢も上がっていくことになります。当然、給与水準も年齢に応じた額が要求されるようになりますし、それなりのポストも求められることになるでしょう。
高度成長期なら、それに応えることもできたでしょうが、低成長の成熟経済下では、年齢に応じた給与やポストを、従業員の求めに応じて与えることは、なかなか難しいというのが実情ではないでしょうか。
もちろん、デメリットもあります。一番大きいのは、優秀な人材が流出してしまう恐れがあることです。優秀な人材は、どこでも必要としていますから、現在よりも有利な条件が提示されることも、決して少なくはありません。
早期退職制度による従業員側のメリットは、やはり退職金の割増ではないでしょうか。リタイア後に、自分の店を持ちたい、起業してみたいという計画がある人にとっては、早期退職制度による退職金割増は、ある意味でチャンスといえるかもしれません。
あるいは、早めにリタイアすることで、学びなおしや趣味、旅行などに、第二の人生費やすことも、老後資金が十分な人にとっては可能なことでしょう。早期退職・希望退職は、退職理由が会社都合となることが多いことから、失業給付金の支給もスムーズとなります。
しかし、世の中、そう思い通りにはいかないものです。これまでの日本の一般的なライフプランとしては、入社した会社に定年まで勤め、定年後は、退職金と年金、蓄えていた預貯金で、悠々自適の老後を送るというものでした。
この、長らく日本の産業を支えてきた終身雇用制や、一括大量採用といった、日本独自のシステムを見直す動きも出てきています。年金の支給開始年齢の延長や支給額の減額、さらには年金そのものの破綻といった最悪のことも、これからは視野に入れておく必要がある、という指摘もあります。
退職金だって、今の支給額の水準が10年後、20年後まで維持されるという保証は、どこにもありません。
デメリットは、必ずしも現在の給与水準とポスト、またはそれ以上の条件の再就職先が見つからない場合があることです。
さらに、これまで積み上げてきたキャリアを、まったく活かすことができなかった場合、仕事への興味や意欲が失われてしまうことだってあり得ます。また、早期退職・希望退職のターゲットになりやすい50代といえば、子どもの教育費やマイホームのローンなどを抱えていることが考えられます。
現在の収入のレベル以上、または同程度が確保され、これまでのキャリアを活かしながら、ステップアップにつながる早期退職ならいいのですが、必ずしも思い描いた通りにはならないというリスクも、早期退職にはつきまとうことを自覚しておく必要があります。
2017年に早期退職・希望退職を募った企業の中で、もっとも募集人員が多かったのはニコン(グループ会社を含む)の1,000人で、スズケン(グループ会社を含む)の350人、みらかホールディングス(グループ会社を含む)の350人、ジャパンディスプレイの240人、スリーエフの180人と続いています。
業種別では、日立国際電気、ジャパンディスプレイ、ウシオ電機など、電気機器が8社の最多で、次に小売が3社と続きました。
早期退職・希望退職に踏み切ったのは、業績不振による人員削減を断行した企業もありますが、業績が好調な時にこそ、将来のビジネス展開を見据えて、思い切った構造改革に取り組むなど「攻め」の姿勢での早期退職・希望退職に踏み切った企業もあるようです。
また、マイナス金利政策による収益悪化や、フィンテック(金融とITの融合)の影響などから、メガバンク3行も店舗の統廃合や人員スリム化方針を公表しました。
みずほフィナンシャルグループは、2026年度末までに約1万9,000人の削減、三菱UFJフィナンシャル・グループは、2023年度末までに6,000人を削減する予定で、新規採用抑制や退職者増加による自然減と、取引先への転籍を増やしていく方針のようです。三井住友フィナンシャルグループも3年間で4,000人分の業務量削減を打ち出しました。
メガバンク3行の人員削減は、現在のところ、希望退職者の募集は予定していないようですが、業績の良し悪しにかかわらず、競争力を高める狙いや、新規事業参入に向けての既存事業の見直しなどから、人員削減に踏み切る企業が続く可能性は十分考えられることです。
早期退職制度は、企業にとっても従業員にとっても、メリットとデメリットが混在する制度です。メリットを享受できるか、それともデメリットで打ちのめされてしまうかは、それぞれの置かれた状況によっても違ってくるでしょう。
ですから、早期退職者を募集する企業も、それを利用する従業員も、よくよく考えたうえで運用・利用することが大切です。
経済構造が根底から変わろうとしているいま、勝ち残る企業となるために、退職金を割増してでも「早期退職制度」を積極的に推し進める企業が、これからますます増えてくる可能性があります。そうした動きに対応していくためには、常に、数年先を見越した洞察力と、日ごろから準備を整えておくことではないでしょうか。
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