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下請け業者がなんらかの過失によって元請け業者に損害を与えた場合、責任の所在は両社の「関係」によって異なります。ニュースでよく耳にするのは、元受会社が下請業者に訴訟を起こすケースですが、関係性によっては下請け業者から元請け業者に対して損害賠償請求されるケースもあります。
今回は、民法に沿っていくつかの事例を挙げながら、元請け業者と下請け業者の関係と責任の所在について解説します。
まずは実際に起きた裁判例を紹介します。
食品業界の大手元請け業者が、下請け業者に衛生管理義務違反があったとして、約8億9700万円の損害賠償請求を提訴した事例を紹介します。裁判所は下請け業者に対し、1億円を超える損害賠償命令を下しました。
元請け業者による訴訟の主な理由は次のとおりです。
・食品に虫が混入したことによるブランドイメージの低下
・売上高減少
・消費者への対応措置にかかるコスト
・返品にかかるコスト
・コールセンター設置にかかるコスト
損害賠償命令を受けた下請け業者の社長は、異物混入に対する謝罪会見を行いましたが、後日高裁に控訴しています。同社社長は、下請け業者における偶発的な食品事故の賠償責任のあり方を問うほか、下請け業者に損害を押し付けてくるのは不当であり、業界を超えて下請け業者全体に影響を及ぼす問題だ、と発言しています。
本裁判の判決からは、両事業者は独立した関係性であることが推測できます。法的には下請け業者に責任があるとはいえ、訴訟によって長年培ってきた企業間の信頼関係が一瞬にして消失する恐ろしさや、下請け業者の存続危機などが浮き彫りになった裁判例といえるでしょう。
裁判例からもわかる通り、責任の所在についての判断は、元請け業者と下請け業者の関係性によって異なります。
請負契約における元請け業者(注文者)と下請け業者(請負人)の関係は、各々が独立した事業者です。民法716条で「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。」と定めていることからも、それぞれが独立した関係性であることがわかります。しかし、民法716条に続けて記載される「ただし、注文又は指示についてその注文者に過失があったときは、この限りではない。」との規定にも注目です。
また、民法715条1項には「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とあります。これは、下請け業者が元請け業者の実質的な指揮監督関係にある場合に、下請け業者は被用者となることを意味しています。その場合、被用者である下請け業者の行為において過失が生じた際は、元請け業者は使用者責任を負う可能性がある、ということです。
実際の事案では、元請け業者が下請け業者に対してどこまで指揮監督をしていたのか、現場に監督を派遣していたのかなど、総合的な考慮によって判断されます。
下請け業者の行為に対して、元請け業者が責任を持つ事例と持たない事例を紹介します。
元請け業者の責任の所在は、原則的に下請け業者との関係性で異なるのがポイントです。
ただし、実際の裁判では総合的に判断して責任の所在を決定します。
(事例)
下請け業者による建築現場での作業中、重機の操作ミスにより通行人にケガを負わせた場合、元請け業者は責任を負うのか?
(関係性1)元請け業者が実質的な指揮監督をしていた場合
元請け業者が作業現場に監督を派遣したり現場に事務所を設けたりするなど、直接間接に関わらず実質的な指揮監督下にある場合や、事故発生の原因が元請け業者の指図に過失があると判定されれば、責任を負うことになります。(民法716条但書・注文者責任による)
(関係性2)下請け業者が独立した地位にある場合
独立した関係性にある下請け業者は、元請け業者の被用者に該当しません。
よって、元請け業者は下請け業者の行為に対する責任を負わないのが原則です。(民法715条1項による)
(事例)
作業現場で下請け業者の労働者が事故に遭った場合、元請け業者は責任を負うのか?
(関係性1)元請け業者が実質的な指揮監督をしていた場合
元請け業者と下請け業者が実質的な使用関係にある、もしくは間接的な指揮監督下にある場合、元請け業者は損害賠償責任などを負う可能性があります。
労働契約法第5条(※1)や労働安全衛生法第3条1項(※2)などを根拠に、元請け業者には被用者である下請け業者に対する安全配慮義務があるためです。
(※1)労働契約法第5条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
(※2)労働安全衛生法第3条第1項
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」
(関係性2)下請け業者が独立した地位にある場合
下請け業者は被用者に該当しないため、このケースにおいても元請け業者は下請け業者が起こした事故に対する責任を負わないのが原則です。(民法715条1項による)
下請け業者が民法715条1項における「使用者」であることを前提に、どのような責任が問われるのかみていきましょう。
被用者にあたる下請け業者が第三者に加えた損害は、元請け業者に対して賠償責任や社会的責任などが問われます。
下請け・元請け業者間において書面による労働契約書を交わしていなくとも、元請け業者が使用者の立場にある場合、下請け業者に対する安全配慮義務が課せられることがあります。民法上、口約束だけでも契約が成立すると考えられているためです。
下請け業者の労働者が負傷や死亡した場合には、安全配慮義務違反と判定される可能性があります。元請け業者が危険発生回避のために適切な措置を取らなかった事実が確認されれば、被用者に該当する下請け業者から損害賠償請求されることがあります。
元請け業者と被用者関係にある下請け業者が、第三者(消費者や注文者など)に対する損害を与えた場合、元請け業者が賠償責任を負うことになります。元請け業者と下請け業者の関係性や指揮監督権の行使の度合いによっては、何対何という割合で責任を負う判例もあります。
工事現場での死亡事故など重大な事態が発生した場合、社会的責任はもちろん、民事責任や刑事責任を問われます。このようなケースでは警察や労働基準局による立ち入り調査が入り、正確な判断が下されます。
独立した関係性にある場合は、下請け業者の行為・損害などについて、元請け業者は原則として責任を負わされません。紹介した裁判例のように、下請け業者に損害賠償請求することも可能です。一方、関係性において明らかに下請け業者が指揮監督下にある場合、元請け業者には安全配慮義務などが生じるため、責任を負う立場となります。
しかしながら、具体的な責任の所在や割合が異なるケースも多々あるため、顧問弁護士への相談や自社業界に精通した弁護士の選任は不可欠です。
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