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会社による残業代の支払い漏れ、いわゆる「未払い残業代」も社会問題になっています。経理が給与計算のミスをする場合もありますので、しっかりと残業代を受け取っているか、働く従業員の側も確認しておかなければならないのです。
この記事では、どのような残業代(割増賃金)の種類があるのか、そして、割増賃金の正確な計算方法について解説いたします。
ここでいう「残業代」を、広い意味での「割増賃金(わりましちんぎん)」と定義し直したときには、「時間外」「休日」「深夜」の3種類に分けることができます。
通常よりもプラスアルファの額を付け加える割増賃金の支払いを会社に義務づけることによって、残業や休日出勤、深夜出勤をむやみにさせすぎないように牽制し、労働者の心身の健康などを保とうとしている狙いがあります。
働き過ぎ、いわゆる「過労」によって、うつ病などの深刻な精神疾患にかかったり、ひどい場合には自ら命を絶とうとします。また、過労に対してどれほど耐えられるかは、個人差や時代背景の差が大きいです。
たとえば、上司が部下に対して、「俺の若い頃は職場に泊まって残業したもんだが、最近の若い者はだらしない」と非難する場合もあります。しかし、働けば働くほど経済成長が望めた世代と、プライベートの時間を大切にしなければ人生が充実しないと考える世代とでは、前提条件が大きく異なりますので、比較対象にすべきではありません。
仕事は、余暇・家庭・友人づきあいや地域貢献などのプライベート時間を充実させるための手段であり、必ずしも人生で最重要の価値ではないとする「ワーク・ライフ・バランス」の考え方は、浸透してきています。
会社は残業代(割増賃金)さえ支払えば、従業員を夜遅くまで、あるいは週末にも呼び出して使えるという免罪符にすべきではないのです。現に、時間外労働は原則として1ヵ月につき45時間、1年につき360時間を超えないものとしなければならないと定められています。
むやみに残業をさせて人材を疲弊させる風潮を改め、時代の流れに適応する態勢を整えなければ、「ブラック企業」との批判を受けるリスクも避けられず、いずれは心ある取引先や顧客も離れてしまいかねません。
以上を前提にして、3種類の割増賃金それぞれについて、解説いたします。
一般的に、標準の労働時間は、1日8時間で週5日の「週40時間」であるとされています。いわゆる「9時5時」(午前9時から午後5時)の勤務形態で、平日(月曜から金曜)に労働をすることを前提としています。
ただ、1日8時間を超えて労働をするときには、「時間外割増賃金」として、通常の1.25倍(25%増)の給与を支払わなければなりません。
職場などに居残って仕事を続ける、いわゆる「残業」は、ここに該当します。
なお、例外として「従業員数10人未満(アルバイト・パート・契約社員なども含む)の事業所」で、かつ、映画演劇・保健衛生・接客娯楽など、特定の職種に該当する場合には、標準の労働時間が「週44時間」になります。そのため、他の企業よりも従業員は割増賃金を受け取る機会が少なくなります。
たとえば、平日5日間を週の標準労働日としている職場において、いわゆる法定休日は、週に1日(あるいは4週につき4日)が設定され、一般的には日曜日が法定休日とされています。この場合、日曜日に勤務を命じた従業員には、通常の1.35倍(35%増)の割増賃金を支払わなければなりません。一般的な時間外労働(残業)よりも多くの割増分の支払いが必要なため、会社は注意を要します。
人間の身体や精神は、夜には寝て休息を取り、太陽が出れば目覚めるほうが自然に活動できるように出来ています。本来は就寝することが望ましい深夜に働くことは、たとえ1日8時間以内でも身体や精神には負担がかかると考えられます。どうしても深夜に従業員を働かさざるをえない職場では、通常の1.25倍(25%増)の深夜割増賃金を支払わなければなりません。深夜とは、午後10時(22時)から翌朝5時の間と定義されています。
もし、1日8時間以上働く時間外労働の時間帯が深夜にかかる場合には、割増しが重複して通常の1.5倍を支払う必要がありますし、休日出勤が深夜にかかるときには、通常の1.6倍を支払わなければなりません。
たとえば、時給1,000円のアルバイト従業員が、平日週5日(日曜日が法定休日)、朝9時から夕方5時までの1日8時間を標準労働時間として勤務しているものとします。
その職場では繁忙期にあたる、とある1週間の勤務時間は次の通りになっていました。
月曜日 9:00~17:00
火曜日 9:00~19:00
水曜日 9:00~17:00
木曜日 8:00~17:00
金曜日 9:00~23:00
土曜日 休み
日曜日 20:00~24:00
※便宜上、休憩時間はなしで計算しています
この週では、月曜日と水曜日は標準的な勤務でした。それぞれ、1,000円/時×8時間勤務=8,000円の給与となります(各種手当は除外するものとします)。
そして、火曜日・木曜日・金曜日に、時間外労働があり、日曜日の休日出勤もありました。さらに、金曜日と日曜日には、深夜労働もみられます。
火曜日は、通常勤務に加えて、17時から19時の2時間の残業がありました。2時間分は、25%増の時間外割増賃金が適用されます。
そのため、(1,000円×8時間勤務)+(1,250円×2時間の時間外労働)=10,500円の給与となります。
木曜日は、8時からの「早出」がありました。この場合も8時~9時が時間外労働となりますので、残業と同じ扱いです。よって、(1,250円×1時間の時間外労働)+(1,000円×8時間勤務)=9,250円の給与となります。
金曜日は、通常勤務に加えて、17時~23時という6時間の時間外労働がありました。そのうち、22時~23時は深夜労働にあたりますので、時間外と深夜の割増が重複し、50%増となります。
よって、(1,000円×8時間勤務)+(1,250円×5時間の時間外労働)+(1,500円×1時間の深夜時間外労働)=15,750円となります。
日曜日は、4時間の休日出勤がありました。そのうち22時~24時の2時間は深夜労働にあたりますので、休日と深夜の割増が重複し、60%増となります。
よって、(1,350円×2時間の休日出勤)+(1,600円×2時間の深夜休日出勤)=5,900円となります。
以上のことから、この週の給与支払いは、次の通りになります。
月曜日 9:00~17:00→8,000円
火曜日 9:00~19:00→10,500円
水曜日 9:00~17:00→8,000円
木曜日 8:00~17:00→9,250円
金曜日 9:00~23:00→15,750円
土曜日 休み
日曜日 20:00~24:00→5,900円
「ブラック企業」「サービス残業」に対する厳しい批判の高まりを背景にして、未払い残業代の問題が話題になっています。従業員が退職時に受け取っていない残業代を、まとめて請求する事例が後を絶ちません。未払い残業代請求の案件を積極的に受け持つ弁護士などの資格者も増えています。
ただし、残業代などの未払い給与の消滅時効は2年です。つまり、2年以上昔に受け取り損ねた残業代などは、もはや会社に請求できなくなるのです。支払われていない残業代がないかどうか、できれば定期的に、ご自分で計算するようにしておきましょう。
また、人事総務の労務管理をしている側としても、間違って支払うことがないよう注意しましょう。
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